ニューヨーク公共図書館にみる民主主義を支えるもの


映画「ニューヨーク公共図書館」を観た。図書館の使命とは、知識や情報をあらゆる人々に分け隔てなく提供すること。そのことによって、差別や貧困、格差などを解消・解決することができるという揺るぎない信念、そして民主主義とは知識や正確な情報抜きには成立しないという強烈な思いが伝わる内容だ。反知性的で「敵」を創出することにより社会を分断する「トランプのアメリカ」とは異なる、多様性を重んじ、重層的かつ草の根的な、民主主義を支える力強い知の営み、人々の行動に感じ入った。この図書館を「雲の中の虹」と評した場面があるが、まさにどんなときでも希望の兆しを提供する場があるという誇りを感じる。

ニューヨーク公共図書館が提供するサービス内容には目を見張った。様々に開かれる著者インタビューや読み聞かせ、学習会といったイベントにとどまらず、求職活動支援、プログラミング教室、点字教室、ダンス教室などなど。中でもデジタルディバイド解消への並々ならぬ意気込みが印象的だ。

「万人に知識・情報を」と考えれば、いまの時代に不可欠なのはインターネットだ。貧困などでデジタルディバイドが生じていれば、それを解消することも図書館の役割だと考え、無料で月に数ギガ使えるよう契約したルーターを貸し出したり、ネットの使い方を教える多言語教室があったり。

こうした活動を支えているのが寄付と市からの予算である点も興味深かった。なんども予算の話が出て来る。そのさい、民間の寄付を糸口として市からの予算を呼び込み、それでさらに寄付を増やすというのが一貫した戦略となっていた。寄付市場が成熟すればこうした戦略がとりやすくなるだろう。日本社会にすれば、これこそ「坂の上の雲」ではないだろうか。

図書館に足を運んでもらう。それがコミュニティでの「つながり」を生む、つまりソーシャルキャピタルになると考えている点も学ぶべき点だと思った。この関係で印象深かったのは、ホームレスへの対応を議論する場面だ。ほかの利用者から苦情が出ていることに対して、「眠るのは禁止。違反したらしばらく利用不可」という規制をするのは簡単だ。だが、これでは単なる社会的排除になってしまう。図書館が万人のための場であるならば、社会的包摂を考えなければならない。出た意見は「図書館ではお互いの距離が取れないから意識する。僕らの社会ではホームレスと距離をとる文化になっている。むしろこの町の文化を変えるべきなのでは」といった内容だ。厄介ごとを避けるのではなく、厄介ごとに向き合って問題解決を共に考えていく姿勢。「政治的中立」などとほざいて憲法関連集会などへの施設貸し出しを渋るような行政機関があちこちにある日本からみれば、ただただため息が出てしまう。

ちなみに日本でも公共図書館に掲げられている「図書館の自由に関する宣言」の冒頭はこうかかれている。<<図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、資料と施設を提供することをもっとも重要な任務とする。>>

行政が予算不足ばかりを言いつのり、司書さえろくに雇わず、指定管理者制度で単に経費を抑制しようとするだけの図書館が多い日本という国。図書館は地域コミュニティの核であり、民主主義の砦だというニューヨーク公共図書館の信念がまぶしかった。

集活ラボ

「集活」を広めたい。 人と集い、語らい、交流し、縁を紡ぐ。 それが集活です。 社会的孤立が広がるいまだからこそ、 集活が必要だと考えます。 集活ラボでは、 関連する情報などを紹介していきます。  集活ラボ所長・星野哲

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